よけいなお話1-2


このような実験は、実際の工場の模擬実験ということになります。われわれはシミュレーションと呼びます。コンピュータによる本格的なシミュレーションが行えるようになったのは1960年代に入ってからなのです。

当時、IBM 7090という大型計算機が登場しました。日本では通産省からのお達しでどこの企業でも輸入するわけにはいきませんでした。八幡製鉄や三菱原子力工業といった基幹産業と原子力関係のところに許可されました。少し遅れてUNIVAC 1106という計算機が防衛庁、三井物産などで使えるようになりました。

どんな機械だったかといいますと、メモリーは32K語(今流にいえば128KB)、128Mではないのですぞ。ハード・ディスクなどありません。磁気テープを巻いたり、戻したりしてデータを書き込むのです。通常は、朝のうちに計算の依頼をすると、夕方にすべてのジョブの結果が印刷されて手許に戻ってきます。「かっこ」が一つ足りないといったミスを直すのに丸一日かかるというものでした。

学部の学生の分際でこんな機械を使って研究ができたのは関根智明親分のおかげでした。大学のコンピュータはメモリーが2K語(8KB相当)の大学自作コンピュータで、機械語でプログラムを組んだものです。

さて、ここでは視覚的に分かりやすいようにカードを利用して「仕掛け」を作りましたが、上に述べた手順の論理をプログラムにすれば、計算機の中で仕掛けは自動的に動いてくれるわけです。プログラム言語は一般のCやBASICなどで書くことが出来ます。あるいはWindows族の皆さんには身近なExcelのシート上でも、このような実験ができます。しかし、プログラミングに精通していない人には苦痛も伴うでしょうし、おまけに間違いだらけになるおそれありです。

そこで、シミュレーション・ソフトというものが世の中には出回っていて、簡単にしかも間違いなくモデルを組み立てることが出来るようになっています。便利な世の中になっているのです。

1963年の春ころに、三菱原子力工業の計算センターにSIMSCRIPTというシミュレーション言語のコンパイラが日本で初めて導入されました。これをはじめて使ったのが若かりしわたしです。いくつかシステムのバグを見つけては、今は亡き菅波三郎さんに計算時間のお駄賃をたっぷり貰ったもんです。